テイクアウトと店内で器は分けるべきか|使い分けの3つの判断軸
テイクアウトと店内で、器を分けるべきか。この問いは、カフェの器選びのなかでも判断が割れるところだと思います。分ければオペレーションは増え、揃えれば体験のどこかを諦めることになる。どちらにも理由があるので、決めきれないまま両方が中途半端になっている店をよく見ます。
判断の軸は、実はそれほど多くありません。体験・回転・コストの3つで考えると、自分の店にとっての答えは出ます。逆に言えば、この3つを分けずに「なんとなく」で決めているうちは、迷い続けることになります。
この記事では、テイクアウトと店内の器の使い分けを、この3つの軸で整理します。器を設計・製造している側から見た、分けたときに実際に増えるコストの中身も具体的に書きます。
テイクアウトと店内で器を分けるべきかは「体験が変わるか」で決まる
最初に決めるのは、その一杯で届けたい体験が、持ち帰った瞬間に成立しなくなるかどうかです。
店内で提供する器は、体験を設計できます。手に持ったときの重さ、口が触れるリムの厚み、飲み進むうちに液面がどう見えるか、両手で包んだときの温度。これらはすべて器の形で変えられます。CAFORAが器を「バリスタの理想を形にするもの」と考えているのも、ここに設計の余地があるからです。
一方、テイクアウトの器に求められるのは、まず中身を守って運べることです。蓋が閉まる、こぼれない、片手で持てる、持ち歩いても熱くない。用途がはっきりしている分、設計の自由度は低くなります。ラテアートを描いても蓋を閉めれば見えませんし、リムの薄さは口をつける前に運搬に耐えるかどうかで決まります。
つまり、器で体験を作り込んでいるメニューほど、店内とテイクアウトは自然に分かれるということです。ラテアートを主役にした一杯、ゆっくり味わってもらう一杯は、店内の器でしか完成しません。逆に、豆の香りと温度が主役で、器の形が体験を左右しないメニューなら、無理に分ける理由はありません。
回転と破損から見た、テイクアウトと店内の器の使い分け
体験の次に見るのは、店のオペレーションです。ここは好みではなく事実で判断できます。
- 1日の提供杯数と、ピークの集中度
- 洗い場のキャパシティ(洗って乾かして戻すまでが何分か)
- 器の置き場所(カウンター下に何客置けるか)
- スタッフの人数と、繁忙時に器を扱う速度
店内の器を増やすほど、洗い・乾燥・収納の負荷は上がります。ここが詰まると、器はカウンターに積まれ、欠けやすくなります。業務用の器が欠けるのは落としたときだけではなく、シンクの中で器同士がぶつかる瞬間や、無理に重ねたときが多い。この点は 食洗機で欠けにくい業務用食器の選び方 に詳しくまとめています。
逆に、テイクアウト比率が高い店では、店内用の器の点数を絞れます。点数を絞れるなら、1客あたりに使える予算は上げられる。ここが重要です。すべてのドリンクに同じ器を用意しようとすると単価を下げるしかありませんが、店内の主役を数種類に絞れば、その数種類は本気で選べます。
開業時にどの器から揃えるかの優先順位は カフェ開業で最初に揃えるべき食器リスト に整理しています。
オリジナルの器を使い分けると、コストは「型」で跳ねる
ここが、外からはいちばん見えにくい部分です。オリジナルの器を店内用とテイクアウト用で分けようとすると、コストは単純な倍にはならず、それ以上に増えます。理由は型にあります。
私たちが実際に進めている案件で、同じシリーズの「カプチーノサイズ」と「エスプレッソサイズ」を同時に作るかを検討したことがあります。結論はカプチーノサイズを先行でした。サイズ違いでも形が変われば型が新しく必要になり、2サイズ同時だと型が2つ。試算すると、それだけで案件の粗利がほぼ消える計算になったためです。
さらに、陶器は焼くと縮みます。私たちが扱っている土では収縮率がおよそ11%あるため、単純な等倍縮小では狙った容量や口径になりません。サイズ違いを1つ増やすというのは、実務上は設計をやり直すことに近い作業です。
工程数の話もあります。色を塗り分ける仕様では、撥水加工をしてから釉薬を掛け、焼成で撥水剤を飛ばす、という手順を踏みます。この撥水を二度掛けする仕様だと、加工の出し値は1個あたり1,500〜1,600円が最低ラインになります(撥水なしの基準は1,300円)。ここで見落としがちなのが、器が小さくなっても工程数は変わらないという点です。小さいから安くなるとは限りません。
CAFORAの最小ロットは1デザインあたり30個です。店内用とテイクアウト用を別デザインにするなら、単純に60個からのスタートになります。この数字を踏まえると、判断はかなりはっきりします。
あえて器を使い分けない、という選択が正解になる条件
以上を踏まえると、分けないほうが強い店の条件が見えてきます。次の3つが揃っているなら、私たちは分けないことをおすすめします。
- 店内の主役メニューが1〜2種類に絞れている
その一杯のための器に予算と設計を集中できます。中途半端な器が2種類あるより、完成度の高い器が1種類あるほうが、店の記憶に残ります。
- テイクアウトが使い捨て容器で完結している
持ち帰りは保護と携帯性が主役です。ここに陶器を持ち込む必然性がないなら、無理に揃える必要はありません。
- 器を店の看板として見せたい
店内の器を1種類に集中させると、SNSに写る器が毎回同じになります。繰り返し同じ器が写ることが、そのまま店の記号になる。器の見せ方の考え方は おしゃれなカフェに見える器選びのポイント も参考になります。
逆に、テイクアウトでも器の体験を届けたい場合は、器を「分ける」のではなく売るという選択肢があります。店で使っている器を物販として並べる形です。持ち帰るのは飲み物ではなく器そのものになるので、運搬の制約から解放されます。
テイクアウトと店内で器を分けるなら、決めておきたいこと
分けると決めた場合は、運用のルールを先に決めておくと現場が迷いません。
見た目の関係を決める
店内用とテイクアウト用がまったく無関係な見た目だと、店の印象が2つに割れます。ロゴ、色、質感のうちどれか1つだけを共通にすると、素材が違っても同じ店のものに見えます。この考え方は カフェの器で統一感を出す方法 と同じです。
温度の設計を分けて考える
店内の器は、飲み終わるまでの温度変化まで設計できます。厚みと形状で冷めにくさは変わるので、ゆっくり味わってもらう一杯ほど効きます(詳細は コーヒーが冷めにくいカップの条件)。テイクアウト容器は保温構造がほぼ決まっているため、ここは淹れる温度側で調整するほうが現実的です。
切り替えの判断をスタッフに渡す
「店内でも急いでいるお客様にはテイクアウト容器で」という運用にするなら、その判断基準を言葉にしておきます。ここが曖昧だと、忙しい時間帯に人によって対応が変わります。
よくある質問
Q. テイクアウトにも陶器を使いたいのですが、現実的でしょうか
店内飲食を前提とした器を持ち出す運用は、破損と回収の負担が大きくなります。デポジット制などの仕組みを含めて設計できるなら成立しますが、まず店内の器を固めるほうが投資対効果は高いと考えています。
Q. 店内用とテイクアウト用でロゴのデザインは変えるべきですか
変えないほうが無難です。同じロゴが両方に載っているほうが、店として認識されやすくなります。
Q. オリジナルの器は、まず店内用とテイクアウト用のどちらから作るべきですか
店内用からをおすすめします。器の形が体験を変えられるのは店内だからです。テイクアウトは既製の容器で機能が満たせることが多く、オリジナル化の効果が出にくい領域です。
Q. 器を分けると在庫管理が煩雑になりませんか
なります。だからこそ点数を絞ることが前提です。器の種類を増やすほど、洗い場・収納・発注のすべてに負荷が乗ります。
まとめ
テイクアウトと店内で器を分けるべきかは、体験・回転・コストの3つで判断できます。器の形が体験を左右するメニューなら店内の器は作り込む価値があり、そうでないなら分ける必要はありません。
オリジナルで分ける場合は、型が増えることでコストが跳ねます。サイズ違いでも設計はやり直しになり、最小ロットは1デザイン30個。数字で見ると、まず店内の主役を1種類に絞るほうが合理的なケースが多いはずです。
CAFORAは、届けたい体験から器の形を設計しています。店内の一杯を器から見直したくなったら、CAFORA までご相談ください。