越前焼とは|焼き締めの素朴な器の特徴と、カフェで使うときの見方
越前焼(えちぜんやき)は、六古窯のなかでは名前を聞く機会が少ない産地かもしれません。備前や信楽ほど知られていないのに、なぜ六古窯に数えられているのか。そして、カフェの器として越前焼をどう見ればいいのか。
先に要点を書きます。越前焼は福井県越前町を中心に、平安時代末期から焼かれてきた六古窯のひとつです。特徴は2つ。鉄分を多く含む土と、釉薬を掛けずに焼き締めること。この2つが、赤黒い肌と頑丈さという越前焼の性格をほとんど説明します。
この記事では、日本六古窯の公式サイト・越前焼工業協同組合・福井県陶芸館の記述をもとに越前焼を整理します。そのうえで、瀬戸と美濃で器を焼いている立場から、カフェの器として越前焼を見るときの判断軸をお伝えします。
越前焼とは:福井県越前町を中心とした、北陸最大の産地
越前焼は、福井県丹生郡越前町を中心に焼かれてきたやきものです。日本六古窯の公式サイトは越前町の立地を「福井県の嶺北地方西部に位置するまち。日本海に面し、鯖江市、南越前町、福井市と隣接しています」と記しています。
産地としての始まりは、次のように説明されています。
越前のやきものの起源は約1,300年前にまでさかのぼりますが、産地としてのはじまりは約850年前の平安時代末期
そして、越前焼を理解するうえで外せないのが、その始まり方です。同サイトは「12世紀後葉、常滑窯から技術を導入して越前焼生産が開始されました」と記しています。つまり越前焼は、常滑の技術から生まれた産地です。その常滑については 常滑焼とは にまとめています。
その後、越前焼工業協同組合によれば、製品は「北前船によって北は北海道から南は島根県まで広まり」、越前は「北陸最大の窯業産地として発展しました」。窯跡は陶芸村近辺を中心に200基以上が発見されています。
六古窯という枠組みそのものと、6産地の比較は 六古窯とは で扱いました。
越前焼の特徴は「鉄分の多い土」と「釉薬を使わない焼き締め」
赤黒い肌は、土の鉄分から来ている
越前焼の色を決めているのは、釉薬ではなく土です。福井県陶芸館の説明が端的です。
越前焼に使われる土には鉄分が多く含まれ、耐火性も強いため、表面が赤黒・赤褐色の焼き上がりとなり、土が焼き締められました。
日本六古窯の公式サイトも、越前の土を「鉄分を含み、耐火度が高く、焼き締まりが良い、粒度が細かく強い粘りを持つ」と説明しています。さらに「石英などのガラス成分を多く含むため、焼き固めた際に土の粒子間にガラス質が流れ込んで隙間を埋め、硬く緻密に仕上がります」とあります。
ここは器をつくる側として、とても分かりやすい構造です。釉薬でガラスの膜を掛けるのではなく、土そのものの成分でガラス質を作って隙間を埋めている。だから水漏れしにくく、水や酒、染色液の保管に使われました。
越前焼工業協同組合は現在も「越前町内で採取した土を、当組合の坏土工場で精製したものを窯元に供給」しており、土へのこだわりを「鉄分を多く含むため、焼き上がりが渋くなるのがその証で、温かみのある土味が最大の魅力」と表現しています(越前焼とは|越前焼公式)。
釉薬を掛けない「焼き締め」と、灰が作る自然釉
越前焼は釉薬を掛けません。六古窯のうち、中世から人の手で釉薬を掛けていたのは瀬戸だけで、越前を含む5産地は焼き締めが特徴です。瀬戸の側の事情は 瀬戸焼とは にまとめました。
ただし「何も掛からない」わけではありません。日本六古窯の公式サイトは越前焼を「灰釉の味わいを秘めた民藝的な美しさが特徴」としています。薪の灰が窯の中で器に降りかかり、高温で溶けてガラス質になる。これが自然釉です。人が塗ったのではなく、窯の中で起きた現象が器の表情になっています。
素地そのものの違い——吸水するかしないか——は 陶器と磁器の違い が参考になります。
壺・甕・すり鉢——「日常の道具」をつくり続けた産地
越前焼が作ってきたものは、はっきりしています。日本六古窯の公式サイトは「主に甕や壺、すり鉢、舟徳利、おはぐろ壺といった日常雑器を中心に生産」と記し、福井県陶芸館は「壺・甕・すり鉢の3器種を中心とした生活雑器や、経筒・骨壺などの宗教的用途」を挙げています。
茶陶として評価された備前や信楽と違い、越前は庶民の日用品をつくり続けた産地でした。装飾で見せるのではなく、水を漏らさない・割れないという実用で選ばれてきたということです。
この性格は、業務用の器を考えるときに意外と近いところにあります。店で毎日使う器に最初に求められるのは、見た目よりも「割れない」「漏れない」「洗える」だからです。CAFORAが瀬戸・美濃の技術で強化土を使っているのも同じ理由で、実際の口当たりや扱いやすさは サンプル で確かめられます。
窖窯から巨大窯、そして瀬戸から伝わった登り窯へ
越前の窯の変化は、規模の話としてとても具体的です。福井県陶芸館によれば、初期は「窖窯(あながま)」——山の斜面をトンネル状に掘り抜いた全長13メートル前後の窯——で、「壺や瓶、すり鉢など約1トンを1300度近い高温で、1週間ほどかけて一度に焼き上げていました」。
その後、大甕の需要が高まると窯はさらに大きくなり、「甕60個、すり鉢1200個など約5トンを一度に焼くことができる全長25メートル以上もの巨大な窯」が作られました。
そして江戸時代後期、「愛知県瀬戸から連房式登り窯の技術が伝わり、登り窯による生産も行われ」るようになります。越前は常滑から始まり、瀬戸から窯の技術を受け取った産地でもあるわけです。窯の形が焼き上がりに何をもたらすのかは 登り窯と穴窯の違い で詳しく書きました。
なお越前焼は、1986(昭和61)年に国の伝統的工芸品に指定され、平成29年4月には日本六古窯として日本遺産に認定されています。
カフェの器として越前焼を見るときの判断軸
魅力のある産地ですが、店で毎日使う器として見るときは、確かめておきたいことがあります。
1. 焼き締めの器は表面の状態が違う 釉薬のガラス質の層がないぶん、土の肌がそのまま出ます。においや着色の残りやすさ、洗い方の注意は器ごとに違います。出す飲みものと洗浄方法を伝えて、つくり手や販売元に確認してください。
2. 色と表情に個体差が出る 鉄分の発色も、灰が作る自然釉も、窯の中の条件で変わります。30客を同じ顔でそろえたい店には、これは条件になります。一点ずつの違いを見せる器として使うのか、定番として揃えるのかを先に決めると選びやすくなります。
3. 食洗機・電子レンジの可否は産地名では決まらない 「越前焼だから大丈夫」とは言えません。個々の製品の表示と、つくり手への確認で判断してください。産地名で器の性格を決めつけられないという話は 日本の焼き物の種類 にまとめています。
4. 後から買い足せるか 業務で使えば器は必ず割れます。同じ窯・同じ仕様で追加発注できるかは、選ぶ前に確認しておく条件です。
よくある質問
Q. 越前焼はどこでつくられていますか 福井県丹生郡越前町を中心とした地域です。日本海に面し、鯖江市・南越前町・福井市と隣接しています。
Q. 越前焼はいつから始まりましたか 日本六古窯の公式サイトは「産地としてのはじまりは約850年前の平安時代末期」とし、12世紀後葉に常滑窯から技術を導入して生産が始まったと記しています。
Q. 越前焼が赤黒いのはなぜですか 土に鉄分が多く含まれているためです。福井県陶芸館は、鉄分が多く耐火性も強いため「表面が赤黒・赤褐色の焼き上がりとなり、土が焼き締められました」と説明しています。
Q. 越前焼は釉薬を使いますか 基本的に人の手で釉薬は掛けません。薪の灰が降りかかって溶けた自然釉が表情になります。日本六古窯の公式サイトは越前焼を「灰釉の味わいを秘めた民藝的な美しさが特徴」としています。
Q. 越前焼はカフェの器として使えますか 使えます。ただし焼き締めの器は表面の状態と洗い方の注意がつくり手によって違い、色にも個体差が出ます。そろえる数・追加発注・洗浄条件を確認してから選んでください。
まとめ
越前焼とは、福井県越前町を中心に平安時代末期から焼かれてきた、六古窯のひとつです。12世紀後葉に常滑の技術から始まり、北前船で北海道から島根まで広がって、北陸最大の窯業産地になりました。
特徴は2つ。鉄分を多く含む土と、釉薬を掛けない焼き締め。土のなかのガラス成分が隙間を埋めて硬く緻密に仕上がるため、水を漏らさず頑丈です。作ってきたのは壺・甕・すり鉢といった日常の道具で、実用で選ばれてきた産地でした。
カフェの器として選ぶときは、産地名ではなく、表面の状態・個体差・洗浄条件・追加発注の4点で見るのが確実です。
CAFORAは、瀬戸と美濃の技術のうえで、バリスタの理想から器を設計しています。越前焼の器と比べてみたくなったら、瀬戸・美濃で焼いたラテボウル、両手で包む 温 -ON- と、ラテアートを広く見せる 拡 -KAKU- もご覧ください。サンプルは1点から購入できます。

