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食器のこと2026.09.14

灰釉とは|草木の灰から生まれた釉薬と、焼き方で色が変わる理由

灰釉とは|草木の灰から生まれた釉薬と、焼き方で色が変わる理由

器の説明に「灰釉(かいゆう/はいぐすり)」と書かれていることがあります。灰でできた釉薬、と聞くと、少し不思議な感じがするかもしれません。灰は燃えかすです。それがなぜ、器の表面のガラスになるのでしょうか。

しかも灰釉は、ひとつの色を指す名前ではありません。同じ灰釉でも、灰の種類と焼き方によって、白にも黄褐色にも淡い青緑にもなります。 美濃焼の伝統的工芸品15品目にも「灰釉」が入っていますが、その中身はかなり幅の広いものです。

この記事では、美濃焼伝統工芸品協同組合や辞典の解説をもとに、灰釉とは何かを整理します。そのうえで、瀬戸・美濃で器をつくる立場から、カフェの器として灰釉を見るときに何を確かめればいいかを書きます。

灰釉とは|草木の灰を溶媒にした釉薬

美濃焼伝統工芸品協同組合は、灰釉を次のように説明しています。

草木の灰を溶媒とした釉薬のこと。

出典:灰釉|美濃焼伝統工芸品協同組合

ポイントは「溶媒」という言葉です。釉薬の主な材料は、長石などの石の成分です。ただ、石の粉だけでは、窯の温度で十分に溶けてガラスになりません。そこで溶かす役として灰を加えます。

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説では、植物の灰にはナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属が含まれており、これが素地の中の長石を溶かしてガラス化する役割を果たすとされています。灰は燃えかすではなく、ガラスをつくるための材料だということです。

同じ辞典は、マツ・カシ・ナラ・クリ・藁などの灰が主で、それぞれ特色のある発色・光沢を呈するとも書いています。燃やす植物が変われば、釉薬の顔も変わります。

出典:灰釉|コトバンク

釉薬そのものの役割(水を通さない・色と質感を出す・汚れを付きにくくする)は、食器の釉薬とは にまとめています。

灰の種類で変わる3つの系統|イス灰・土灰・藁灰

美濃焼伝統工芸品協同組合は、灰釉の原料となる草木は多く、多少の相違はあるものの、イス灰類・土灰類・藁灰類の大きく3つに分類できるとしています。同組合の説明を表にまとめます。

系統

どんな灰か

釉薬の性格

イス灰類

主に灰をつくる目的で草木を焼いたもの。鉄分が比較的少ない

白色に近く、わずかに淡青磁調。染付の釉薬に適する

土灰類

薪として使ったあとの雑木の灰。土石・鉄分などが混入しやすい

酸化焼成で黄褐色、還元焼成で淡青緑ないし褐色を帯びた緑

藁灰類

稲の藁を焼いて粉砕・水簸した、珪酸質の灰

土灰と混ぜて、乳白色の不透明な光沢釉として使う

出典:灰釉|美濃焼伝統工芸品協同組合

この表でいちばん大事なのは、鉄分の量です。鉄分の少ないイス灰は白に近く、鉄分が混ざりやすい土灰は色がつく。灰釉の色の幅は、灰に含まれる鉄から生まれています。

同じ灰釉が、焼き方で黄褐色にも青緑にもなる

土灰の行をもう一度見てください。同じ釉薬なのに、酸化焼成では黄褐色、還元焼成では淡青緑と、色が分かれています。

これは、窯の中の酸素の量で鉄の発色が変わるからです。酸素が十分にある酸化焼成と、酸素が足りない還元焼成とでは、釉薬に含まれる鉄の状態が変わり、色が変わります。仕組みは 還元焼成と酸化焼成の違い に詳しく書きました。

美濃焼の様式にも、これがそのまま出ています。岐阜県の解説では、黄瀬戸は灰釉を主体とした釉薬で、焼成の状態によって黄金色から黄緑色に発色するとされています。灰釉の黄色を様式にまで高めたのが黄瀬戸です(織部焼・志野焼・黄瀬戸の違い)。

この「焼き方で色が動く」性質は、伝統の器だけの話ではありません。私たちが器の量産を窯元と検討したときも、同じ白い釉薬でも、酸化で焼くとやや黄寄り、還元で焼くとやや青寄りになるという前提で色味を決めました。灰釉の黄褐色と淡青緑は、その差がもっと大きく出たものだと考えると分かりやすいと思います。

焼き方で決まる色味は、写真ではほとんど伝わりません。瀬戸・美濃で焼いたCAFORAの器の手ざわりは、サンプル で実物を確かめられます。

灰釉の歴史|猿投窯から瀬戸・美濃へ

灰釉は、瀬戸・美濃の器づくりの土台になってきた、古い釉薬です。

日本大百科全書(ニッポニカ)によれば、日本では平安時代の9世紀に、愛知県の猿投(さなげ)窯が、中国の越州窯青磁を手本に灰釉を開発し、さらに古瀬戸などに発展しました。

その流れは、瀬戸と美濃の両方に続いています。

時代

灰釉をめぐる出来事

9世紀(平安時代)

猿投窯が越州窯青磁を手本に灰釉を開発(ニッポニカ)

平安時代

美濃で灰釉や緑釉をかけた器が焼かれる(美濃焼伝統工芸品協同組合)

10世紀後半

瀬戸で灰釉陶器を焼く窯が現れる

鎌倉・室町時代

灰釉を基調とした古瀬戸。美濃でも灰釉・鉄釉の器

16世紀後半

土岐市の元屋敷東1号窯(大窯)で、天目茶碗・灰釉皿・すり鉢が生産される(土岐市)

出典:元屋敷陶器窯跡|土岐市公式ウェブサイト

青磁を手本にしたという出発点は、イス灰の釉薬が「わずかに淡青磁調」になるという説明とも重なります。灰釉は、青磁の色に近づこうとして生まれ、やがて黄瀬戸の黄や御深井の淡い緑へと枝分かれしていった釉薬です。美濃焼全体の流れは 美濃焼とは に、瀬戸の歴史は 瀬戸焼とは にまとめています。

カフェの器として灰釉を見るときの3点

灰釉の器は、流れや濃淡、焼きむらがそのまま表情になります。一杯のコーヒーの横に置いたとき、均一な工業製品にはないやわらかさが出る。そこが魅力です。

一方で、業務で毎日使う器として見るなら、表情の豊かさと引き換えになるものがあります。確かめるのは次の3点です。

  1. 色の幅を、並べて見る|灰の種類と焼き方で色が動く釉薬です。1客ではなく、同じ商品を複数並べて、どこまで色がばらつくかを見てください
  2. 追加発注で同じ色が出るかを聞く|割れた1客を半年後に買い足したとき、その1客だけ黄色く、あるいは青く見えることがあります。同じ窯・同じ焼き方で継続して焼けるかを確認します
  3. 白系か色つきかで、飲みものの見え方を決める|イス灰のように白に近い釉薬はコーヒーの濃淡をそのまま見せ、土灰の黄褐色はミルクの白を少し沈ませます。メニューとの相性で選びます

私たちが自社の器の色を窯元と詰めるときも、発色と再現性を判定の軸に置いています。狙った色が1回出ることより、同じ色が繰り返し出ることのほうが、カフェの器にとっては大事だからです。マットの釉薬では、急冷で割れることがあるという指摘も窯元から受けており、色と一緒に強さも確かめます。

よくある質問

Q. 灰釉の読み方は? 「かいゆう」または「はいぐすり」です。辞典にも両方の読みが載っています。

Q. 灰釉は何の灰を使うのですか 辞典では、柞(いす)・欅(けやき)・松などの木の灰や、竹の灰・藁の灰などが挙げられています。美濃焼伝統工芸品協同組合は、イス灰類・土灰類・藁灰類の3系統に分けています。

Q. 灰釉の色は何色ですか 一色には決まりません。鉄分の少ない灰なら白に近く、土灰は酸化焼成で黄褐色、還元焼成で淡い青緑になります。藁灰を混ぜると乳白色になります。

Q. 黄瀬戸と灰釉はどう違いますか 黄瀬戸は、灰釉を主体とした釉薬で黄金色から黄緑色に発色させた、美濃の桃山時代の様式です。灰釉は釉薬の種類の名前、黄瀬戸はそれを使った様式の名前です。

Q. 灰釉の器は電子レンジや食洗機に使えますか 灰釉だから使える・使えない、ということはありません。器ごとに製品の表示を確認してください。業務で毎日回すなら、対応表示のあるものを選ぶのが確実です。

まとめ

灰釉とは、草木の灰を溶媒にした釉薬です。灰に含まれるアルカリが長石を溶かし、ガラスの膜になります。

灰の種類でイス灰・土灰・藁灰の3系統に分かれ、鉄分の量と焼き方によって、白にも黄褐色にも淡い青緑にもなります。9世紀の猿投窯に始まり、古瀬戸、美濃の大窯、黄瀬戸へと続いてきた、瀬戸・美濃の釉薬の土台です。

カフェの器として選ぶなら、表情のやわらかさと、色のばらつき・追加発注での再現性を合わせて見てください。美濃の15の様式全体は 美濃焼とは にまとめています。瀬戸・美濃で焼いたCAFORAのラテボウルは、温 -ON- と 拡 -KAKU- の商品ページで仕様を確かめられます。

CAFORA