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食器のこと2026.10.07

施釉とは|釉薬のかけ方の種類と、施釉・無釉で変わる器の扱い

施釉とは|釉薬のかけ方の種類と、施釉・無釉で変わる器の扱い

器の説明書きに「施釉」「無釉」と書かれていて、何が違うのか分からなかったことはないでしょうか。「せゆう」と読みます。焼き物の工程のひとつで、素焼きした器に釉薬(ゆうやく)をかけることを指します。

結論から言うと、施釉は器の表面にガラスの層をつくる工程です。かけ方には浸す・流す・吹くなどの種類があり、どの方法をとるかで仕上がりの均一さと表情が変わります。そして釉薬をかけるかかけないかは、見た目の好みだけでなく、毎日洗って使う器としての扱いを大きく変えます。

この記事では、施釉とは何か、釉薬のかけ方の種類、釉むらが出る理由、そして施釉の器と無釉(焼き締め)の器で何が違うのかを整理します。後半には、私たちが自社の器で色を分けようとしたときに施釉の工程で実際に起きたことも書きます。

施釉とは|素焼きした器に釉薬をかける工程

焼き物の工程は、おおまかに「成形 → 乾燥 → 素焼き → 施釉 → 本焼成」と進みます。施釉はその4番目です。

佐賀県陶磁器工業協同組合の解説では、器に色を付けたり、耐久性を上げるためにガラス質の成分を含んだ釉薬を素焼き生地の表面に施し焼成しますと説明されています(出典:加飾|有田焼・佐賀県陶磁器工業協同組合)。

同組合の焼成の解説によれば、素焼きは約900℃前後で約10時間、施釉を終えた生地の本焼成は約1300℃で約12時間。本焼成の目的は、生地を釉薬でコーティングし、焼成の際の化学反応による下絵・釉薬の発色と吸水性をなくし食器としての強度を得ることとされています(出典:焼成|有田焼・佐賀県陶磁器工業協同組合)。

つまり施釉は、焼く前の器に「ガラスになる前の材料」を載せる工程です。釉薬は本焼成で溶けてガラスの膜になり、水を通さず、汚れが付きにくい表面をつくります。釉薬そのものが何でできていて、マットと光沢で何が変わるかは 食器の釉薬とは に書きました。この記事は、その釉薬を「どうかけるか」の話です。

愛知県の瀬戸焼の解説では、工程が成型・乾燥・生地の仕上げ・素焼き・絵付け・施釉・釉薬の汚れ取り・本焼と並んでいます(出典:瀬戸焼|あいちの地場産業・愛知県)。施釉のすぐ後に「釉薬の汚れ取り」がある点に注目してください。かけたあとに、要らないところの釉薬を拭き取る工程がセットになっています。

釉薬のかけ方の種類|浸す・流す・吹く・塗る

釉薬は液体なので、かけ方にはいくつもの方法があります。三重県の窯業研究室が公開している資料では、施釉の方法として噴霧施釉(スプレーガンで吹き付ける)、流し掛け、ディッピング法(浸し掛け)の3つが挙げられています(出典:釉むら|陶磁器製品欠点防止法の科学・三重県工業研究所)。これに筆や刷毛で塗る方法を加えて整理します。

かけ方

やり方

向くもの

特徴

浸し掛け(ディッピング)

釉薬の液に器を浸して引き上げる

全体を1色にする器

均一にかかる。業務用の器で最も一般的

流し掛け

柄杓などで釉薬を器に流しかける

大きな器、動きのある表情

流れた跡がそのまま景色になる

吹き付け(噴霧)

スプレーで霧状に吹く

濃淡・グラデーション

薄く重ねられる。設備と技術が要る

筆・刷毛塗り

筆や刷毛で塗る

部分的な加飾、模様

塗り跡が残る。手仕事の表情

業務用のカップやボウルの多くは、浸し掛けです。製造の現場では「ドボン」と呼ばれることもあります。器を釉薬に浸して引き上げるだけなので工程が最も軽く、仕上がりも安定します。私たちの器も、全体を1色にする仕様では浸し掛けです。

一方で、浸し掛けでは器の内側と外側に同じ釉薬がかかります。内側だけ透明にしたい、外側だけマットにしたい、という要望が出た瞬間に、工程は浸し掛け1回では済まなくなります。ここが施釉の難しさの入口です。

高台と釉薬の汚れ取り

器を浸せば、底にも釉薬がかかります。けれど底に釉薬が付いたまま焼くと、溶けた釉薬が窯の棚板にくっついて器が取れなくなります。だから、器が棚板に接する高台(こうだい)の釉薬は焼く前に拭き取ります。これが愛知県の工程にあった「釉薬の汚れ取り」です。

器を裏返すと、高台の部分だけ釉薬がなく土が見えているのは、この工程の跡です。業務用の器を選ぶときは、ここがきれいに処理されているか、ざらつきでテーブルを傷つけないかを見てください。

釉むらはなぜ出るのか

施釉でいちばん起きやすい不良が釉むらです。同じ器なのに、ところどころ釉薬が厚い・薄い、色が濃い・淡い、という状態です。

三重県工業研究所の資料は、釉むらの防止法を方法ごとに挙げています。噴霧施釉ではスプレーガンの噴霧を均一にすること、素地を乾燥すること、釉の水分を減ずること。流し掛けと浸し掛けでは、素地の密度を均一にすること、素焼を均一にすること、余分の釉をうまく切ることが重要とされています。

ここで分かるのは、釉むらの原因の半分は、釉薬をかける前にあるということです。素地の密度が場所によって違えば、水を吸う速さが違い、釉薬の付き方が変わる。素焼きの温度にむらがあれば、同じことが起きる。施釉は、成形と素焼きの結果をそのまま表面に映す工程でもあります。

私たちがサンプルを検品するときも、色ムラ・マットとグロスの質感差・釉薬の定着を個体ごとに記録しています。釉薬が薄いところや抜けているところは、そこから欠けが始まります。写真では分からないので、CAFORAの器は サンプル で実物の釉薬の掛かり方を確かめられるようにしています。

施釉と無釉(焼き締め)で変わる器の扱い

釉薬をかけずに焼く器もあります。焼き締め、または無釉と呼ばれ、備前焼がその代表です。日本六古窯の公式サイトは備前について、絵付けや施釉をせず、土の質や成分が焼成した際の景色に良く表れていることが特徴としています。詳しくは 備前焼とは に書きました。

施釉の器と無釉の器は、表面が「ガラス」か「土」かという違いです。これが毎日の扱いにそのまま効いてきます。

施釉の器

無釉(焼き締め)の器

表面

ガラスの層

土そのもの

吸水

釉薬の膜が止める

焼き方によっては水を吸う

汚れ・茶渋

付きにくく、落としやすい

土肌に入りやすい

手触り

なめらか(マット釉はわずかにざらつく)

ざらつき、土の感触

向く用途

毎日洗って使う業務用の器全般

土の表情を見せたい器

毎日何十回も洗って使うカフェの器では、施釉が基本になります。中世の瀬戸が国内で唯一の施釉陶器の産地だったという歴史は 古瀬戸とは にまとめましたが、釉薬をかけた器が日用品として広まった理由は、いまも変わっていません。

なお、施釉の器でも、釉薬に細かいひびが入る「貫入」があると、そこから茶渋が入ることがあります。貫入の仕組みと器の替えどきは 陶器の貫入とは に書いています。

色を分けようとすると、施釉の工程はどう増えるか

ここからは、私たちが自社の器で実際に経験したことです。

CAFORAの広口の器は、当初、取っ手にだけ色を残して本体を別の色にする仕様でした。これを施釉で実現しようとすると、工程は次のようになります。

  1. 素焼きの状態で、色を付けない部分に撥水剤を塗る(釉薬をはじく下処理)
  2. 色の釉薬を浸し掛けする(撥水した部分には付かない)
  3. 焼成する(撥水剤は焼成時に飛ぶ)

これで終われば工程は1つ増えるだけです。ところが実際には、撥水剤の境目が面として管理できず、釉薬の表面張力で際が寄る・にじむ・リング状の跡が残るという不良が出ました。1個ならきれいにできても、100個すべてで同じ境目をつくるのは非常に難しい、というのが製造側の見解でした。

さらに、マットの釉薬同士を塗り分けようとすると、素焼きと撥水を複数回挟む工程になり、焼成回数も増えます。工程が増えるぶん、歩留まりが読めなくなり、原価も上がります。

私たちが最終的に採った解は、釉薬同士の境目をつくらないことでした。下地に化粧土で色を付け、その上から透明釉を1回だけ全体にかける。色を分けているのは化粧土で、施釉は1回。境目が釉薬同士でなくなるので、再現性が大きく上がります。この話の釉薬側の事情は 食器の釉薬とは にも書きました。

ここから言えることは明快です。施釉の回数と境目の数が、器の安定性と原価を決める。 色を増やしたい、塗り分けたいという要望は、施釉の工程がいくつ増えるかに置き換えて考えると、判断がぶれません。ロゴを入れる場合も、釉薬の下に入れるか上に入れるかで工程が変わります(カフェの食器にロゴを入れる方法)。

もうひとつ、現場で知っておきたいことがあります。吹き付けで濃淡を出す方法は、設備に加えて職人の技術が要ります。私たちが量産を相談した工房では、吹きの職人がほぼいないという答えでした。方法として存在することと、業務用の数量で頼めることは別です。

施釉について、器を選ぶとき・頼むときに確認すること

既製品を選ぶときも、別注を頼むときも、施釉については次の点を確認してください。

  1. 釉薬の定着|縁・高台まわり・取っ手の付け根に釉薬が薄い箇所や抜けがないか。欠けはここから始まります
  2. 複数個を並べて見る|釉むらは1個では分かりません。同じ商品でマット寄りとグロス寄りが混ざっていないか
  3. 内側と外側が同じ釉薬か|浸し掛けなら同じになります。内側だけ違う仕様は、工程が増えている分だけ価格と納期に反映されます
  4. 高台の処理|釉薬の拭き取りがきれいか、ざらつきがないか
  5. 別注なら、施釉の回数を聞く|「この仕様だと施釉は何回ですか」と聞けば、工程の複雑さと原価の見当が付きます

施釉を含めた工程全体の日数は 別注食器の納期はどれくらい? に、別注の前提は オリジナル食器を作る前に知っておきたいこと にまとめています。同じ釉薬でも焼き方で色が変わる話は 還元焼成と酸化焼成の違い をどうぞ。

よくある質問

Q. 施釉とは何ですか 素焼きした器に釉薬をかける工程のことです。本焼成で釉薬が溶けてガラスの層になり、器の表面を覆います。

Q. 施釉の方法にはどんな種類がありますか 三重県工業研究所の資料では、噴霧施釉(吹き付け)・流し掛け・ディッピング法(浸し掛け)が挙げられています。ほかに筆や刷毛で塗る方法があります。業務用の器で最も一般的なのは浸し掛けです。

Q. 施釉と無釉はどちらがいいですか 用途で決まります。毎日洗って使う業務用の器は、表面がガラスになる施釉が基本です。土の表情を見せたい器では、釉薬をかけない焼き締めが選ばれます。

Q. 釉むらはなぜ出るのですか 三重県工業研究所の資料では、素地の密度や素焼きの均一さ、余分な釉の切り方が挙げられています。釉薬をかける前の工程の状態が、表面にそのまま出ます。

Q. 器の底に釉薬がかかっていないのはなぜですか 焼くときに棚板にくっつかないよう、器が接する高台の釉薬を焼く前に拭き取っているためです。

まとめ

施釉とは、素焼きした器に釉薬をかける工程で、本焼成でその釉薬がガラスの層になります。かけ方には浸し掛け・流し掛け・吹き付け・筆塗りがあり、業務用の器では均一にかかる浸し掛けが基本です。釉むらの原因の多くは、釉薬をかける前の素地と素焼きにあります。

釉薬をかけた施釉の器と、かけない無釉の器では、吸水・汚れ・手触りが変わり、毎日洗って使うカフェの器では施釉が基本になります。そして色を分けようとすると施釉の回数と境目が増え、安定性と原価に直結する。私たちは釉薬同士の境目をつくらない設計に切り替えることで、これを解きました。

CAFORAは、瀬戸・美濃焼の技術と強化土で、バリスタの理想から器を設計しています。施釉の器の口当たりと扱いやすさは、温 -ON-・拡 -KAKU- のサンプル1点から確かめられます。どちらも業務用食洗機・電子レンジに対応しています。

CAFORA