食器の釉薬とは|マットと光沢の違いと、色を分けるときの制約
器を選んでいると、同じ形なのに雰囲気がまるで違う——ということがあります。片方は光を鋭く返し、片方は光を吸う。厚みも大きさも同じなのに、テーブルに置いたときの印象が別物になる。
その差をつくっているのが釉薬(ゆうやく)です。器の表面にある薄いガラスの層のことで、色・質感・光の返し方は、ほぼここで決まります。
この記事では、釉薬とは何かという基本から、マットと光沢が実際の店で何を変えるか、そしてオリジナルの器で色を分けようとしたときに製造の現場で何が起きるかまでを書きます。最後の点は、私たちが実際に自社製品の色を決める過程でぶつかったことです。カタログには載らない話なので、器をつくることを検討している人には特に読んでほしいところです。
釉薬とは|器の表面にあるガラスの層
釉薬は、成形した器に掛けて焼くことでガラス質の膜になる材料です。焼き物の工程は、成形 → 乾燥 → 施釉(せゆう)→ 焼成と進みます。この「施釉」で掛けるのが釉薬です。
釉薬には3つの役割があります。
- 水を通さなくする … 素地そのものは水を吸います。釉薬の膜がそれを止めます
- 色と質感を出す … 器の見た目のほとんどは釉薬が決めています
- 汚れを付きにくくする … 表面がガラスなので、素地のままより格段に洗いやすい
つまり釉薬は装飾であると同時に、業務用として使えるかどうかを左右する機能部品でもあります。素地の話(陶器か磁器か)と釉薬の話は別物で、混同すると器選びを外します。素地側の違いは 陶器と磁器の違い にまとめています。
マットと光沢で、同じ形の器がまるで違って見える
釉薬でいちばん体感が変わるのが、マット(つや消し)か光沢(グロス)かです。
光沢の釉薬は光を鏡のように返します。店内の照明が点として映り込むため、器の輪郭がはっきりし、清潔感と張りが出る。白い光沢の器にラテを注ぐと、液面のコントラストが強く出ます。
マットの釉薬は光を拡散します。映り込みが消えるぶん器の存在が静かになり、土の質感が前に出る。写真に撮ったときに白飛びしにくいのも特徴です。
光沢(グロス) | マット | |
|---|---|---|
光 | 点で映り込む | 拡散する |
印象 | 清潔・シャープ | 静か・素朴 |
汚れ | 目立ちにくい | 指紋・水滴が残りやすいことがある |
写真 | 照明が映り込む | 白飛びしにくい |
手触り | なめらか | わずかにざらつく |
どちらが良いということはなく、店の照明と世界観で決まります。スポットライトが強い店で光沢を選ぶと、写真に照明が写り込み続けます。逆に間接照明中心の店でマットを選ぶと、器が沈んで見えることがある。器単体ではなく、実際の照明の下で見て決めてください。
なお、質感を混ぜること自体は悪くありません。方向性が揃っていれば豊かさになります。この考え方は カフェの器で統一感を出す方法 で詳しく扱っています。
釉薬で色を分けるのは、思っているより難しい
ここからが、実際につくる側の話です。
「本体を2色に塗り分けたい」「下半分だけ色を変えたい」——オリジナルの器では自然に出てくる要望です。私たちも自社の広口ラインでこれをやろうとして、製造側から明確に止められました。
理由は釉薬の物理です。釉薬と釉薬の境目は、面としてコントロールできません。 焼成中に釉薬は溶けて流動するため、境界線で表面張力が働きます。結果として起きるのは次の3つです。
- 際(きわ)が寄る … 引いたはずの線が、焼くと片側に引っ張られる
- にじむ … 境界がぼやけ、狙った線幅にならない
- リング状の跡が残る … 境目に輪ができる
しかも、これは「気をつければ防げる」種類の問題ではありません。ロットごとに出方が変わるため、再現性そのものが担保できない。30個のうち何個かは狙いどおりで、何個かは違う——という状態になります。
では塗り分けは不可能かというと、そうではありません。境目を「釉薬と釉薬の境目」でなくせば解決します。 私たちが採ることにしたのは、下地に化粧土を使い、その上から透明釉を全体に掛ける方法です。色を分けているのは化粧土のほうで、釉薬は1種類しか掛かっていない。境界が釉薬同士の境目ではなくなるので、再現性が大きく上がります。
もうひとつの現実的な解は、色を全体に1色掛けたうえで、筆で描き足す方法です。境目が人の手で決まるため、そもそも表面張力の問題が起きません。
要点はこうです。器の色を分けたいときは、「どう塗り分けるか」ではなく「境目をどこに置くか」を設計する。 ロゴを入れる場合も同じ構図で、手法によって出せる精度が変わります(カフェの食器にロゴを入れる方法)。
色を1色増やすと、何が増えるのか
もうひとつ、カタログからは見えないことがあります。釉薬には調合の単位があり、最低施釉ロットが存在します。
釉薬は使う分だけ少量つくる、というわけにいきません。調合の単位が決まっているため、「この色を10個分だけ」という頼み方が成立しないことがあります。つまり色を1色増やすことは、工程を1つ増やすこと以上の意味を持つ場合がある。
さらに、素材によっては塗り分けそのものの歩留まりが落ちます。私たちが使っている強化土でも、塗り分けは歩留まりが悪いという評価でした。強度を優先した素材ほど、装飾の自由度は下がる傾向があります。
オリジナルの器を検討するときは、色数を最初から絞るほうが結果的に良いものになります。2色にしたい理由が「なんとなく寂しいから」なら、1色にして形で見せるほうが、仕上がりも納期も安定します。別注全体の前提は オリジナル食器を作る前に知っておきたいこと にまとめました。
業務用で釉薬を見るときの3点
既製品を選ぶときも、別注を検討するときも、釉薬については次の3点を実物で確認してください。
- 釉薬の定着|縁や高台まわりに釉が薄い箇所、抜けている箇所がないか。ここが弱いと、そこから欠けが始まります
- 色ムラと質感差|複数個を並べて見ます。1個では分かりません。同じ商品でマット寄りとグロス寄りが混ざっていないか
- 内側の色|液体の色がどう見えるかを決めます。白い内壁はコーヒーの濃淡をそのまま見せ、色付きの内壁は沈ませます
私たちがサンプルを検品するときは、色ムラ・マットとグロスの質感差・釉薬の定着を、歪みや寸法・重量と並べて個体ごとに記録します。焼き物である以上ばらつきはゼロになりませんが、どの程度ばらつくのかを知ったうえで発注するのと、知らずに発注するのとでは、届いたときの納得感がまったく違います。
CAFORAは瀬戸・美濃焼の技術のうえで強化土を使い、チップに強く食洗機・電子レンジに対応する器をつくっています。産地ごとの製法の違いは 瀬戸焼と美濃焼の違いとは に、3D陶器プリンターを使った試作の回し方は 3Dプリンターで陶器は作れる? に書いています。
よくある質問
Q. 釉薬に食品衛生上の問題はありませんか 日本で流通している食器用の釉薬は、食品衛生法の基準に沿ってつくられています。業務用として仕入れるときは、規格に適合していることを販売元に確認してください。
Q. マットの器は汚れが染みませんか 釉薬が掛かっていれば、マットでも表面はガラス質です。素地に染みることはありません。ただし表面がわずかにざらつくぶん、指紋や水滴の跡が残って見えることはあります。
Q. 同じ色を追加で発注したら、色が変わりませんか ロットが変われば、まったく同じにはなりません。焼き物では避けられない性質です。色の連続性が重要なら、必要数をまとめて発注してください。
Q. 釉薬の色は自由に指定できますか 使える色は、その工房が扱っている釉薬の範囲で決まります。まったく新しい色を起こすのは、調合と試験焼成が必要になるため別の話になります。まずは既存の色から選べるかを相談するのが現実的です。
まとめ
釉薬は器の表面にあるガラスの層で、色・質感・光の返し方を決めています。マットと光沢の選択は、器単体ではなく店の照明の下で決めてください。
そしてオリジナルの器で色を分けたいときは、「釉薬と釉薬の境目」をつくらない設計にすること。境目を化粧土や筆に移せば再現性が上がります。色数を増やす判断は、工程だけでなく最低施釉ロットや歩留まりにも効いてきます。
CAFORAは、バリスタが届けたい一杯から逆算して器を設計しています。瀬戸・美濃で釉薬をかけて焼いたラテボウル 温 -ON-・拡 -KAKU- の質感と口当たりは、サンプル1点から確かめられます。

