鋳込み成形とは|石膏型に泥を流す器づくりと、ろくろとの違い

「この器はどうやってつくられているのだろう」。ろくろで引いた器なら、手の跡や回転のゆらぎでなんとなく分かります。けれど、業務用の器の多くは、ろくろではつくられていません。同じ形が30個、100個と並ぶ器のほとんどは、型でつくられています。
その型を使う方法のひとつが、鋳込み成形(いこみせいけい)です。
結論から言うと、鋳込み成形とは、水で溶いて泥状にした土を石膏の型に流し込み、型が水を吸って固まった土を取り出す成形方法です。ろくろでは難しい複雑な形や薄い器がつくれて、同じ形を繰り返し再現できる。一方で、型を起こす費用と、形によって歪みやすいという弱点があります。
この記事では、鋳込み成形の仕組みと種類、ろくろや機械成形との違い、そして私たちが実際に自社の器を鋳込みで試作したときに起きたことを書きます。別注の器を考えているバリスタに、「どの成形方法で、どこまで同じ器が揃うのか」を判断する材料として読んでもらえればと思います。
鋳込み成形とは|石膏型が水を吸い、土の層ができる
鋳込み成形の仕組みは、石膏が水を吸う性質を使ったものです。
まず、土を水で溶いて泥漿(でいしょう)という泥状の液体にします。これを石膏型に流し込むと、型が泥漿の水分を吸い、型の内側の面に沿って土の層が固まっていきます。しばらく置いて土の層が必要な厚みになったところで型から外せば、型の内側の形をした器の素地ができあがります。
佐賀県陶磁器工業協同組合の解説は、代表的な方法である排泥鋳込みを、型に流し込んだ泥しょうが必要な厚みを得た後に余分な泥しょうを排出(排泥)し、生地を成形しますと説明しています(出典:成形|有田焼・佐賀県陶磁器工業協同組合)。
ポイントは、器の形を決めているのは人の手ではなく型であるということです。型が同じなら、理屈のうえでは同じ形が何度でも出てきます。これが鋳込み成形の最大の強みであり、業務用の器づくりで広く使われている理由です。
鋳込みで成形したあとは、ほかの焼き物と同じ道をたどります。乾燥させ、素焼きし、釉薬をかけ、本焼成する。成形の方法が変わっても、焼き物である以上、焼けば縮み、1点ずつ差が出るという性質は変わりません。工程全体と所要時間は 別注食器の納期はどれくらい? に書いています。
鋳込み成形の種類|排泥鋳込みと圧力鋳込み
鋳込み成形には、いくつかの方法があります。器づくりでよく出てくる2つを押さえておきます。
排泥鋳込み(はいでいいこみ)
型に泥漿を流し込み、必要な厚みの土の層ができたところで、余分な泥漿を流し出す方法です。中が空洞の、いわゆる袋物(カップ・急須・花瓶など)に向いています。カップの内側の空間は、流し出した泥漿があった場所です。
製造の現場では「ガバ鋳込み」と呼ばれることもあります。私たちのラテボウルのサンプルも、この方法でつくってきました。
圧力鋳込み(あつりょくいこみ)
佐賀県陶磁器工業協同組合の解説では、凸と凹の上下一対になった石膏型を積み重ね、圧力をかけて泥しょうを型へ流し込み生地を成形する方法とされています。
圧力をかけて流し込むので、複雑な形や細かい部分まで泥漿が行き渡りやすい。愛知県の瀬戸焼の解説でも、食器の工程に「圧力鋳込み」が挙げられています(出典:瀬戸焼|あいちの地場産業・愛知県)。私たちの広口の器では、取っ手の部分をこの圧力鋳込みでつくる構成になっています。
排泥鋳込み | 圧力鋳込み | |
|---|---|---|
仕組み | 型に流し込み、余分な泥漿を排出する | 一対の型に圧力をかけて泥漿を流し込む |
向く形 | 中が空洞の袋物(カップ・急須など) | 変形物・細かい形・取っ手などの部品 |
設備 | 石膏型と泥漿があれば始められる | 加圧する装置が要る |
茨城県の窯業指導所が公開している試作の報告書では、圧力鋳込みで2kg/cm²で加圧しながら30分間、排泥鋳込みでは約20分後に排泥し、30分放置して脱型という条件が記録されています(出典:アルミナ製品の成形試作|茨城県窯業指導所・研究報告)。材料は食器の土ではなくアルミナですが、「流し込んで、待って、外す」という鋳込みの時間の感覚は、この数字でつかめます。
ろくろ・機械成形との違い|何が形を決めているか
鋳込み成形を理解するには、ほかの成形方法と並べるのが早いです。違いは「何が形を決めているか」です。
成形方法 | 形を決めるもの | 得意 | 不得意 |
|---|---|---|---|
ろくろ | 人の手 | 1点ずつの表情、少量 | 同じ形を大量に揃える |
鋳込み成形 | 石膏型 | 複雑な形・薄い器、同じ形の再現 | 重い部品が付く形は歪みやすい |
機械成形(動力成形) | 石膏型+機械のヘラ | 真円の器を安定して大量に | まとまった数が前提 |
3D陶器プリンター | データ | 型なしで試作、形の修正 | 1個ずつ積むので大量生産 |
佐賀県陶磁器工業協同組合は、ろくろを回転による遠心力を用いて陶土を挽き上げ、美しく整った回転体をつくる陶磁器の成形機具、機械ろくろをダボと呼ぶ石膏で作った台の上に石膏型を置き、回転させながらハンドルについているヘラで生地を押し削りながら形を作っていきますと説明しています。
つまり、機械成形も型を使います。鋳込みとの違いは、泥漿を流すのか、土を型に押し付けて削るのか、です。回転体(カップや皿のような丸い形)を真円で揃えるなら機械成形、回転体でない形や中が空洞の複雑な形なら鋳込み、という使い分けになります。
3D陶器プリンターは、この表のなかで唯一、型を使いません。データを変えればそのまま違う形が出てくるので、理想の形を探している段階に向いています。詳しくは 3Dプリンターで陶器は作れる? に書きました。
鋳込み成形の弱点|重い取っ手が本体を歪ませる
ここからは、私たちが実際に経験したことです。
CAFORAの広口の器には、大きな取っ手が付いています。この器のサンプルを、本体を排泥鋳込み、取っ手を圧力鋳込みでつくって接合する構成で試作しました。製造側からは、このまま本番の量産に進むことについて明確に止められました。理由は歪みです。
- 取っ手が重いので、乾燥や焼成のあいだに本体がその重さに引っ張られる
- 直線部分が長い形ほど、引っ張られて変形しやすい
- 対策は鋳込みの時間を長くして厚くすることだが、そうすると器の重さと口当たりが変わる
鋳込み成形は「型のとおりに固まる」のであって、「型のとおりに焼き上がる」のではありません。固まった土の層は、乾燥と焼成でまだ動きます。その動きは、器の形と部品の重さに左右されます。取っ手のない丸い器は歪みにくく、重い取っ手が付いた器は歪みやすい。これは技術の巧拙ではなく、物理です。
結果として私たちは、量産ではこの器の本体を機械成形に切り替え、取っ手だけを圧力鋳込みでつくって接合する構成にしました。マグカップで同じ問題が出る理由は オリジナルマグカップの作り方 にも書いています。
同じ図面でも、成形方法が変われば厚み・重さ・口当たりは変わります。だからサンプルは、本番と同じ成形方法でつくったものを見るのが原則です。CAFORAの器は サンプル で、実物の厚みと重さを確かめられます。
型を起こすとは何か|原型・ケース型・使用型
鋳込み成形で器をつくるには、型が要ります。この「型を起こす」工程が、鋳込み成形の初期費用の正体です。
型は1つではありません。一般に、まず器の形そのものである原型をつくり、原型から型の型であるケース型を取り、ケース型から実際に泥漿を流す使用型を複製します。使用型は石膏なので、使ううちに吸水力が落ち、面が傷みます。消耗品として、数を揃え、入れ替えながら使います。
瀬戸で世界に輸出された陶磁器の置物も、原型・石こう型・鋳込み・絵付けという一連の技術でつくられてきました。その話は 瀬戸ノベルティとは にまとめています。
別注の器を検討するとき、ここで知っておきたいことが2つあります。
- 型の費用は、数量に関係なく最初にかかる|30個でも300個でも、型は同じだけ要ります。だから少数ほど1個あたりの型代が重くなります
- 型を直すことは、型をつくり直すことに近い|口径を2mm広げたい、底を少し浅くしたい。データなら数分の修正が、型では原型からやり直しになることがあります
この2つが、「オリジナルの器は数百個から」と言われてきた理由の中心にあります。私たちが3D陶器プリンターで型なしの試作を回し、形が決まってから型を起こす順番にしているのは、型を直す回数をゼロに近づけるためです。
鋳込み成形の器を選ぶとき・頼むときの見方
既製品を選ぶときも、別注を頼むときも、鋳込み成形の器については次の点を確認してください。
- 内側の形を見る|排泥鋳込みの器は、内側が型の面ではなく「泥漿を流し出した面」です。内側の仕上がりが滑らかか、厚みが均一かを手で触って確かめます
- 型の継ぎ目を見る|型は複数のパーツに分かれているので、合わせ目に薄い線が出ることがあります。仕上げで消されているか、どの位置にあるかを見ます
- 取っ手や脚の付け根を見る|別の型でつくった部品を接合している場合、その付け根が歪みと割れの起点になります
- 同じ型でも個体差があると知っておく|型が同じでも、泥漿の状態・型の乾き具合・焼成で1点ずつ違いが出ます。「まったく同じ」ではなく「同じ型から生まれた器」が揃うと考えてください
別注の相談で窯元やメーカーに「鋳込みですか、機械成形ですか」と聞けるようになると、話が早く進みます。頼み方の全体像は 陶器をオーダーするには と オリジナル食器を作る前に知っておきたいこと にまとめています。
よくある質問
Q. 鋳込み成形とは何ですか 泥状にした土(泥漿)を石膏の型に流し込み、型が水を吸って固まった土の層を器の素地として取り出す成形方法です。
Q. 排泥鋳込みと圧力鋳込みはどう違いますか 排泥鋳込みは、型に流し込んだ泥漿が必要な厚みになったら余分な泥漿を排出する方法で、中が空洞の器に向きます。圧力鋳込みは、上下一対の型に圧力をかけて泥漿を流し込む方法で、複雑な形や部品に向きます(佐賀県陶磁器工業協同組合)。
Q. 鋳込み成形の器は、ろくろの器より劣りますか 優劣ではなく用途の違いです。1点ずつの表情を求めるならろくろ、同じ形を揃えたいなら型です。業務用の器の多くは型でつくられています。
Q. 鋳込み成形なら、どんな形でもつくれますか 型から抜ける形であることが前提です。また、重い部品が付く形や直線部分が長い形は、乾燥・焼成のあいだに歪みやすくなります。
Q. 鋳込み成形の器は電子レンジや食洗機で使えますか 成形方法では決まりません。土と釉薬と焼成で決まります。製品の表示を確認してください。CAFORAの器は強化土を使い、食洗機・電子レンジに対応しています。
まとめ
鋳込み成形とは、泥状にした土を石膏型に流し込み、型が水を吸って固まった土を器の素地として取り出す方法です。余分な泥漿を流し出す排泥鋳込みと、一対の型に圧力をかけて流し込む圧力鋳込みがあり、ろくろでは難しい複雑な形や、同じ形の再現を得意とします。
一方で、型を起こす費用は数量に関係なく最初にかかり、重い取っ手が付いた形や直線部分の長い形は歪みやすい。私たちは実際にこの歪みで量産の成形方法を切り替えました。
別注の器では、「どの成形方法で、どこまで同じ器が揃うのか」を先に確かめてください。CAFORAは3D陶器プリンターで型なしの試作を重ね、形が決まってから瀬戸・美濃の工房で量産に進む順番で、バリスタの理想から器を設計しています。鋳込み成形でつくる 温 -ON-・拡 -KAKU- は、サンプル1点から実物の厚みと重さを確かめられます。

