招き猫の瀬戸と常滑の違い|瀬戸系・常滑系の顔立ちと産地の歴史

店のレジ横や棚に置かれた招き猫を見比べると、顔つきがずいぶん違うことに気づきます。すらりとした猫もいれば、丸い顔に大きな目で小判を抱えた猫もいる。この違いの多くは、どこで生まれた型かで説明できます。
先に要点を書きます。招き猫の二大産地は、どちらも愛知県の瀬戸と常滑です。瀬戸は明治30年代に、日本で最初に磁器の招き猫の量産を始めた産地で、細身で前垂れを着けた猫が古いかたちです。常滑は1930年代後半に生産を始め、二頭身に大きな目と耳、小判を抱えた猫を広めました。
この記事では、愛知県の観光公式サイト「Aichi Now」、瀬戸市の招き猫ミュージアム、とこなめ観光協会の解説をもとに、瀬戸系と常滑系の違いを整理します。私たちCAFORAも瀬戸と美濃で器を焼いています。
招き猫の瀬戸と常滑の違い:まず結論
愛知県の観光公式サイトは、二つの系統を次のように紹介しています。
スリムで上品な『瀬戸系(磁器)』 ずんぐりとした『常滑系(陶器)』
出典:愛知で幸せ探しの旅 招き猫の二大産地 常滑・瀬戸へ行こう!|Aichi Now(愛知県公式観光サイト)
同サイトと招き猫ミュージアムの記述を表にまとめると、こうなります。
瀬戸系 | 常滑系 | |
|---|---|---|
生産の始まり | 明治30年代(後半) | 1930年代後半 |
素材(Aichi Nowの分類) | 磁器 | 陶器 |
体つき | スリム・細身 | ずんぐり・二頭身 |
顔立ち | 柔らかなライン | 大きな耳・まるい顔・大きな(垂れた)目 |
目印 | 前垂れ(前掛け)・フリル | 大きな小判 |
形の決まり | 決まった形がない | 型として確立している |
出典:Aichi Now、招き猫ミュージアム「招き猫作り100年のまち」、とこなめ観光協会(観光庁 多言語解説文データベース)
見分けるときの一番分かりやすい手がかりは、小判を抱えているかどうかと頭と体の比率です。ただし瀬戸系は「こうと決まった形はなく」と書かれているとおり幅が広く、表はあくまで典型例の比較です。
瀬戸の招き猫:日本で最初に磁器で量産した産地
瀬戸が招き猫の産地として最も古いことは、複数の資料が一致して書いています。愛知県の観光公式サイトの「来る福招き猫まつり in 瀬戸」の紹介は、こう記しています。
明治30年代に日本で最初に磁器による招き猫の量産を始め、100余年に及ぶ招き猫の歴史がある瀬戸
出典:第31回 来る福招き猫まつり in 瀬戸|Aichi Now
瀬戸市にある招き猫ミュージアムも、瀬戸を全国の陶磁器産地の中で一番最初に招き猫作りをはじめた地と説明しています。そのうえで、瀬戸の古い招き猫の姿をこう書いています。
「古瀬戸(ふるせと)タイプ」と称される細身で前垂れを着けたかたちの招き猫は、京都の伏見人形が原型とも言われます
伏見人形が原型という点は「とも言われます」という伝え方で、断定ではありません。
同ミュージアムは、招き猫をセト・ノベルティー生産の原点ともいえるもののひとつとしています。人形や鳥を精密に表現して海外へ輸出された瀬戸ノベルティの流れは 瀬戸ノベルティとは に、瀬戸焼そのものの特徴と歴史は 瀬戸焼とは にまとめています。細かい表現が得意という瀬戸系の性格は、この置物づくりの技術の厚みと切り離せません。
常滑の招き猫:二頭身と小判の「常滑タイプ」
常滑の招き猫は、瀬戸より後から始まりました。とこなめ観光協会が観光庁の多言語解説文データベースに寄せた解説は、こう記しています。
常滑で生産が始まったのは1930年代後半のことだ。当時、伝統的な焼き物産業が衰退していたため、地元の職人たちが新たなビジネスとして置物を作り始めたのだ
出典:常滑系招き猫(観光庁 多言語解説文データベース/一般社団法人とこなめ観光協会)
同じ解説は、1950年までに常滑市は日本の招き猫の主要生産地となり、二頭身体に大きな目と耳が特徴的な招き猫が作られるようになったと続けています。招き猫ミュージアムも、小判を抱えた二頭身の「常滑タイプ」を最もポピュラーで生産高が多い招き猫とし、昭和20年代後半に現在のモデルが完成したと書いています。
愛知県の観光公式サイトは、常滑系招き猫について全国の約8割のシェアを占めていると言われていますと紹介しています。「招き猫」と聞いて多くの人が思い浮かべる顔は、常滑の型だということです。
常滑は、釉薬を使わない焼締と朱泥の急須で知られる六古窯の産地でもあります。産地としての常滑は 常滑焼とは に、瀬戸と常滑を含む6つの古い産地の比較は 六古窯とは に整理しました。
瀬戸系・常滑系の違いを、器をつくる側から見る
Aichi Nowは瀬戸系を「磁器」、常滑系を「陶器」と分類しています。器をつくる立場から見ると、この素材の違いは顔立ちの違いとつながって見えます。
磁器は白く、細かい形を出しやすい素材です。前垂れのフリルや柔らかな輪郭といった細部の表現が瀬戸系の持ち味として挙げられているのは、この性格と相性がよいからだと考えられます。一方、常滑系は大きな耳・まるい顔・大きな目という、遠目にも分かる強い造形で型を確立しました。陶器と磁器の素材の違いそのものは 陶器と磁器の違い に書いています。
ただし、これは産地の典型を比べた話で、すべての招き猫に当てはまる線引きではありません。招き猫ミュージアムも、平成に入ってから実に多種多様な招き猫が作られるようになりましたとし、招き猫をテーマに作品づくりをするアーティストが増えていると書いています。

写真は、石川県で活動する作家・菊池俊治さんの招き猫「manekineko」です。瀬戸系・常滑系のどちらの型にも属さない、現代の作家による作品です。手を上げるという招き猫の基本の所作だけを残し、形はぐっと簡潔になっています。
店に置く招き猫を選ぶときの見方
招き猫ミュージアムは招き猫を、店先にちょこんと座っておいでおいでと手招きしている縁起物と紹介しています。愛知県の観光公式サイトも、常滑焼の招き猫が商売繁盛のアイテムとして、店舗(おもに飲食店)に飾られるようになりましたと書いています。
店に置くものとして選ぶなら、次の順で考えると決めやすくなります。
- 店の空気に合う系統を選ぶ|にぎやかで分かりやすい縁起物なら常滑系、すっきりした佇まいなら瀬戸系や作家ものが候補です
- 大きさを置き場所から決める|レジ横なら会計の邪魔にならない高さ、入口なら外から見える大きさ。先に置き場所を測ります
- 素材と仕上げを確かめる|釉薬のかかった艶のある肌か、マットな肌か。触れられる場所に置くなら、手入れのしやすさも確認します
器と同じで、白の色味や肌の質感は写真では伝わりにくいものです。写真で紹介した manekineko は、商品ページで素材とサイズを確かめられます。
よくある質問
Q. 招き猫の瀬戸系と常滑系はどう見分けますか 典型的には、細身で前垂れを着けているのが瀬戸系、二頭身で大きな目と耳をもち小判を抱えているのが常滑系です。愛知県の観光公式サイトは、瀬戸系を「スリムで上品」、常滑系を「ずんぐりとした」と表現しています。
Q. 瀬戸と常滑、どちらが先に招き猫をつくり始めましたか 瀬戸です。瀬戸は明治30年代に磁器の招き猫の量産を始め、常滑は1930年代後半に生産を始めました。愛知県の観光公式サイトは、常滑は瀬戸に「遅れること50年後」に招き猫づくりを始めたと書いています。
Q. よく見かける小判を持った招き猫はどこの型ですか 常滑系です。招き猫ミュージアムは、小判を抱えた二頭身の「常滑タイプ」を最もポピュラーで生産高が多い招き猫としています。
Q. 瀬戸系は磁器、常滑系は陶器と決まっていますか 愛知県の観光公式サイトはそう分類して紹介していますが、個々の招き猫の素材は製品ごとに確認してください。
Q. 招き猫の産地は瀬戸と常滑だけですか 日本招猫倶楽部は主な産地として、愛知県瀬戸市・常滑市のほか、岐阜県多治見市、石川県金沢市や小松市などを挙げています。
まとめ
招き猫の瀬戸と常滑の違いは、始まった時期と型にあります。瀬戸は明治30年代に日本で最初に磁器の招き猫を量産した産地で、細身で前垂れを着けた「古瀬戸タイプ」が古いかたちです。常滑は1930年代後半に生産を始め、二頭身に大きな目と耳、小判を抱えた「常滑タイプ」で主要産地になりました。
見分けるときは、小判の有無と頭身を見るのが手早い方法です。そのうえで、店に置くなら系統・大きさ・素材の順に考えると選びやすくなります。
瀬戸系・常滑系のどちらの型にも属さない現代の招き猫として、CAFORAでは菊池俊治さんの manekineko を取り扱っています。排泥鋳込みでかたちをつくり、ひとつずつ手で仕上げた磁器の招き猫で、1体から購入できます。

