瀬戸染付焼とは|特徴と瀬戸焼との違い、磁祖から続く藍の絵付け

「瀬戸焼」と「瀬戸染付焼」。同じ瀬戸の名前が付いていますが、指しているものは同じではありません。瀬戸の器を調べていると、国の伝統的工芸品として「瀬戸染付焼」という名前だけが別に出てきて、何がどう違うのか分からなくなることがあります。
結論から言うと、瀬戸染付焼は、瀬戸焼のなかでも「白い磁器に、藍色の絵を筆で描き、釉薬をかけて焼いたもの」を指します。瀬戸焼が産地全体の呼び名であるのに対し、瀬戸染付焼はその中のひとつの技法と様式に付いた名前です。
この記事では、瀬戸染付焼の特徴、瀬戸焼との違い、そして江戸時代の終わりに磁器の技術が瀬戸に根づいた経緯を、愛知県・瀬戸染付工芸館・瀬戸市が公開している資料をもとに整理します。私たちCAFORAは瀬戸・美濃で器を焼いているので、最後に、カフェの器として見るときにこの技法から何を学べるかも書きます。
瀬戸染付焼とは|白い磁器に藍色の絵を描いて焼いた器
愛知県の解説では、瀬戸染付焼の特徴を次のように説明しています。白地の素地に絵付を行い、施釉後焼成したものが染付であり、藍色を基調とした色彩で繊細な自然画や鳥、花などを筆で描く技術が特徴とされています(出典:瀬戸染付焼|あいちの地場産業・愛知県)。
ここで押さえたいのは3つの要素です。
- 素地が白い磁器であること(陶器ではない)
- 藍色の絵を筆で描くこと(印刷や転写ではない)
- 絵の上から釉薬をかけて焼くこと(絵が釉薬の下にある)
瀬戸染付工芸館の解説によれば、瀬戸染付は山水・花鳥・草花等が他産地よりも写実的・繊細に描かれ、輪郭を線で描かずに水墨や濃淡で描き表す「没骨(もっこつ)」という技法が取り入れられています。代表的な図柄には花鳥文、四君子(蘭・竹・菊・梅)、青海波などがあります(出典:瀬戸染付とは|瀬戸染付工芸館・公益財団法人瀬戸市文化振興財団)。
瀬戸染付焼は、平成9年5月14日に国の伝統的工芸品に指定されています(愛知県)。瀬戸で国の指定を受けている焼き物は、瀬戸染付焼と赤津焼の2つです。
瀬戸焼と瀬戸染付焼の違い|産地の名前と、技法の名前
瀬戸焼は、愛知県瀬戸市を中心につくられる焼き物全体の呼び名です。愛知県の解説でも、陶器も磁器も生産されることが瀬戸焼の特色の一つとされています。産地全体の成り立ちは 瀬戸焼とは にまとめています。
一方の瀬戸染付焼は、その瀬戸焼のなかで、磁器に下絵付けをした器だけを指します。関係を表にすると次のようになります。
瀬戸焼 | 瀬戸染付焼 | |
|---|---|---|
何を指すか | 瀬戸でつくられる焼き物全体 | 瀬戸の磁器に藍の絵を描き、釉薬をかけて焼いたもの |
素地 | 陶器も磁器もある | 白い磁器 |
絵付け | 絵付けの有無・方法はさまざま | 筆による下絵付け(藍色) |
国の伝統的工芸品 | 産地全体ではなく、赤津焼と瀬戸染付焼が指定 | 平成9年に指定 |
つまり「瀬戸染付焼の器は瀬戸焼である」は正しく、「瀬戸焼の器はすべて瀬戸染付焼である」は正しくありません。陶器の瀬戸焼もあれば、絵のない白い磁器の瀬戸焼もあります。
陶器と磁器が何によって分かれるかは 陶器と磁器の違い に書きました。瀬戸染付焼は、その「磁器」の側にある器です。
瀬戸染付焼の特徴|呉須の藍色と「ねらし」
技法の中身をもう少し見ていきます。
藍色の正体は呉須
絵の具は呉須(ごす)と呼ばれます。瀬戸染付工芸館によれば、呉須の主成分は酸化コバルトで、他に鉄・マンガン・ニッケル・クロム等の金属を合わせることで、一括りに「青」とはいえ実に多様な色合いがつくられます。同じ「藍」でも、調合と焼き方で色味が動くということです。
絵は釉薬の下にある
工程は、愛知県の解説では、成形後に素焼きした素地に直接筆で呉須絵具などを用いて下絵付を行い、その後釉薬を施して本焼成します。瀬戸染付工芸館も、素焼きの素地に下絵の具で描き、その後釉薬をかけて焼成すると、釉薬が透明に変化し下に描いた絵柄が鮮明に浮かび上がる、と説明しています。
絵が釉薬の下にあるため、毎日洗っても絵柄が摩耗しない。これは業務用の器として見たときに大きな意味を持ちます。焼く順番で色数や耐久性がどう変わるかは 上絵付けと下絵付けの違い に整理しました。
「ねらし」で釉薬を熟成させる
愛知県の解説がもうひとつ特徴として挙げているのが、潤いを持った仕上がりにするため、本焼成時に「ねらし」を行い釉薬を熟成させることです。ねらしとは、一定時間窯の温度を高温のまま維持することを指します。釉薬が十分に溶けて落ち着くまで温度を保つ、という工程です。
器の表情は、絵の上手さだけで決まるのではなく、窯の中でどう焼かれたかで決まる。瀬戸染付焼の特徴に「ねらし」が含まれているのは、そのことをよく示しています。
私たちも瀬戸・美濃で器を焼くとき、同じ白い釉薬でも焼き方で色味が変わる前提で色を決めています。白の出方は写真ではほとんど分からないので、CAFORAの器は サンプル で手ざわりと重さを確かめられるようにしています(サンプルはグレーです)。
瀬戸染付焼の歴史|有田に遅れること約200年
瀬戸はもともと陶器の産地でした。磁器の技術が入ってきたのは、江戸時代の終わりです。
瀬戸染付工芸館の解説によれば、17世紀初めに九州・有田地方で磁器製造に成功したのに対し、瀬戸は有田に遅れること約200年後の19世紀初めに磁器製造に成功しました。愛知県の解説でも、19世紀初め、加藤民吉等が磁器の焼成技術を瀬戸の地で広めたことが起源とされています。
瀬戸市が公開している論考集(瀬戸市美術館長・服部文孝氏ほか)には、当時の呼び方が記されています。瀬戸では、旧来の陶器を「もともとの仕事」という意味で「本業焼」と称し、新しく登場した磁器を「新製焼」あるいは「染付焼」と称しました。これまで陶業を営めたのは長男戸主に限られていたのが、新製焼に関しては二男・三男でも開業できたことや、本業焼から新製焼への転業が相次いだことで、すぐに磁器生産は陶器生産をしのいでいき、磁器は瀬戸を代表するやきものとなっていったとされています(出典:初期染付・民吉に係る論考集|瀬戸市)。
同じ論考集には、磁器の創始をめぐる史料の食い違いも書かれており、本当の瀬戸の磁器の創始者は誰になるのかは謎だとされています。民吉ひとりの功績として語りきれる話ではない、という点は押さえておきたいところです。
年代 | 瀬戸で起きたこと |
|---|---|
17世紀初め | 九州・有田で磁器製造に成功(瀬戸染付工芸館) |
享和年間(1801〜1804) | 瀬戸で磁器生産が始まる。旧来の陶器を「本業焼」、磁器を「新製焼」「染付焼」と呼ぶ(瀬戸市) |
19世紀初め | 加藤民吉等が磁器の焼成技術を瀬戸に広める(愛知県) |
その後 | 絵師から絵付の指導を受け、南宋風の絵画を施す技術などが加わって急速に発展(愛知県) |
平成9年 | 瀬戸染付焼が国の伝統的工芸品に指定(愛知県) |
磁祖・加藤民吉が持ち帰ったもの
瀬戸染付工芸館は、加藤民吉が九州から丸窯や柞灰の使用などを伝えたことで、瀬戸の磁器の生産技術は飛躍的に進歩し、以降は染付が中心となって瀬戸の発展を支えた、としています。
瀬戸市の論考集(元愛知県陶磁美術館副館長・仲野泰裕氏)によれば、柞灰は石灰成分が40〜50%を占め、他の木灰に比較して鉄分が少なく、磁器用に用いられました。瀬戸で柞灰が導入されるのは民吉の帰郷後とされ、日向産のものを大坂経由で入手しましたが、高価で不足がちだったとされています(出典:瀬戸染付磁器 研究の現状と課題|瀬戸市)。
絵柄ではなく、窯と釉薬の原料。白い磁器を白く焼くために必要だったのは、目に見えにくい部分の技術でした。民吉という人物については 加藤民吉とは に詳しく書いています。
カフェの器として、瀬戸染付焼から学べること
ここからは、器を選ぶ側・つくる側の話です。
1. 藍色の下絵付けは、業務用に向いた加飾である|絵が釉薬の下にあるので、食洗機で毎日洗っても絵柄が削れません。店のロゴや柄を器に入れたいとき、「釉薬の下か上か」が耐久性の分かれ目になります。方法ごとの違いは カフェの食器にロゴを入れる方法 にまとめました。
2. 白い磁器は、コーヒーの色をそのまま見せる|瀬戸染付焼が白い素地を前提にしているように、白い内側はラテの濃淡やクレマの色を正直に映します。器の白さを生かすという考え方は、藍の絵があってもなくても同じです。
3. 「青」には幅がある|呉須は酸化コバルトを主成分に複数の金属を合わせてつくられ、調合と焼き方で色味が動きます。追加発注で前と同じ色が出るかは、発注前に窯元・メーカーへ確認してください。これは藍に限らず、釉薬の色全般に言えることです。
瀬戸は、陶器も磁器も、絵付けも焼成も担い手が集まった産地です。既製品で合うものがなければ、器をつくることもできます。進め方は オリジナル食器を作る前に知っておきたいこと にまとめています。
瀬戸染付焼と、ほかの産地の染付
染付そのものは瀬戸だけの技法ではありません。有田をはじめ、各地に染付の器があります。瀬戸染付焼の個性は、瀬戸染付工芸館の説明にあるとおり写実的で繊細な筆の表現と、没骨という描き方にあります。
同じ藍の染付でも、産地によって白の色味や絵の雰囲気は違います。たとえば愛媛の砥部焼は厚手の白磁に藍の染付が特徴で、砥部焼とは に書きました。瀬戸と隣の美濃の関係は 瀬戸焼と美濃焼の違いとは にまとめています。
よくある質問
Q. 瀬戸染付焼と瀬戸焼は同じものですか 違います。瀬戸焼は瀬戸でつくられる焼き物全体の呼び名で、瀬戸染付焼はそのなかで、白い磁器に藍の絵を筆で描き、釉薬をかけて焼いたものを指します。
Q. 瀬戸染付焼は陶器ですか、磁器ですか 磁器です。愛知県の解説では、白地の素地に絵付を行い、施釉後焼成したものが染付とされています。
Q. 瀬戸染付焼の特徴は何ですか 藍色を基調に、繊細な自然画や鳥、花などを筆で描く技術と、本焼成時に「ねらし」を行って釉薬を熟成させることです(愛知県)。
Q. 瀬戸染付焼はいつ始まりましたか 瀬戸市の論考集では、瀬戸の磁器生産は享和年間(1801〜1804)からとされています。愛知県の解説では、19世紀初めに加藤民吉等が磁器の焼成技術を広めたことが起源とされています。
Q. 瀬戸染付焼の器は食洗機で使えますか 器ごとに表示を確認してください。下絵付けの絵柄は釉薬の下にあるため、洗浄で摩耗しにくいという性質があります。
まとめ
瀬戸染付焼とは、瀬戸の白い磁器に呉須で藍色の絵を筆で描き、釉薬をかけて焼いた器のことです。瀬戸焼が産地全体の名前であるのに対し、瀬戸染付焼は技法と様式の名前で、平成9年に国の伝統的工芸品に指定されています。
特徴は、写実的で繊細な筆の絵付けと、本焼成時の「ねらし」。歴史は江戸時代の終わり、有田に約200年遅れて瀬戸が磁器を焼き始めたところから始まり、加藤民吉らが九州から持ち帰った窯と原料の技術で、磁器は瀬戸を代表するやきものになりました。
カフェの器として見るなら、絵が釉薬の下にあるので摩耗しないこと、白い磁器がコーヒーの色をそのまま見せること、そして青には調合と焼き方による幅があることの3点を押さえてください。
CAFORAは、瀬戸・美濃焼の技術と強化土で、バリスタの理想から器を設計しています。この産地で焼いているラテボウルが、両手で包む 温 -ON- と、ラテアートを広く見せる 拡 -KAKU- です。サンプルは1点から、店のロゴ入りの本購入は30個から承っています。

