波佐見焼とは|日用の器で広まった産地の特徴と、有田焼との違い
カフェの器を探していると、波佐見焼(はさみやき)は必ず候補に上がります。白くて、手頃で、形が新しい。「日用の器の産地」として、いま最も使われている産地のひとつです。
先に要点を書きます。波佐見焼は長崎県東彼杵郡波佐見町を中心につくられる磁器で、始まりは慶長3年(1598)にさかのぼります。江戸後期には日本一の磁器生産量を誇り、その主役は「くらわんか碗」という庶民向けの器でした。手頃で良質な日用食器という性格は、そのころから変わっていません。
この記事では、波佐見町と伝統的工芸品産業振興協会の公式ページの記述をもとに波佐見焼を整理し、隣の産地である有田焼との違いも公式の記述だけで比べます。そのうえで、瀬戸と美濃で器を焼いている立場から、カフェの器として見るときの判断軸をお伝えします。
波佐見焼とは:長崎県波佐見町を中心につくられる磁器
伝統的工芸品産業振興協会によれば、波佐見焼が国の伝統的工芸品に指定されたのは「昭和53年2月6日」。主な産地は「東彼杵郡波佐見町、川棚町、東彼杵町」です。
特徴として挙げられているのは、次の点です。
透けるような白磁の美しさと、青い呉須(ごす)で絵付けされた染付の、繊細で深い味わいが特徴
そして、同協会はこう続けます。
伝統的なものからモダンなものまで、幅広い製品があります。価格も手頃です
「幅広い」と「手頃」が公式の説明に入っている産地は、実はそう多くありません。 ここが波佐見焼の性格をよく表しています。
磁器そのものの性質——吸水しにくさ、薄くつくれること、口当たり——は 陶器と磁器の違い に、素材の分類全体は 食器の素材の種類 にまとめました。
波佐見焼の歴史:慶長3年の登り窯から、日本一の磁器生産量へ
波佐見町の公式サイトは、始まりを具体的に記しています。
慶長3年(1598)、文禄・慶長の役に参加した大村藩主・大村喜前は朝鮮の陶工・李祐慶兄弟たちを連れ帰りました。その翌年彼らが波佐見町村木の畑ノ原、古皿屋、山似田に階段状連房式登窯を築き、やきものづくりを始め
最初から磁器だったわけではありません。 同サイトは「はじめは施釉陶器をつくっていましたがその後、磁器の原料が発見されてからは急速に染付と青磁を中心とする磁器生産に移行します」としています。
そして、こう続きます。
後に大村藩の特産品に数えられ、江戸後期には日本一の磁器生産量を誇るまでになりました
日本一の生産量。 波佐見焼を理解するうえで、この一点は外せません。美術品ではなく、数をつくって多くの人に届ける器としての産地だった、ということです。
なお、波佐見は六古窯には含まれません。六古窯は中世から続く6産地を指す区切りで、産地の規模や知名度の順位ではないからです(六古窯とは)。
くらわんか碗が変えたもの:磁器を庶民の器にした量産
波佐見焼を語るときに必ず出てくるのが「くらわんか碗」です。波佐見町の公式サイトは、こう説明しています。
少し粗い白磁に呉須(藍色)で簡単な模様を描いた器で、大量生産によって、それまで庶民の手に届かなかった磁器碗を手頃な価格に
ここに書かれていることを、順に読み解きます。「少し粗い白磁」「簡単な模様」——つまり、精緻さを競う器ではありません。そのかわり量をつくれる。結果として、それまで手が届かなかった磁器の碗が、普通の人の食卓に乗るようになりました。
器をつくる側から見ると、これは「どこに手間をかけ、どこを削るか」の設計です。絵を簡略にし、成形を揃えれば、価格は下がって数は出る。品質を落としたのではなく、届ける相手に合わせて設計を変えたということです。
波佐見町の公式サイトは、その姿勢が今も続いているとしています。
毎日の暮らしの中で使える、手頃でしかも良質な食器を提案するという姿勢は、現在まで変わることなく波佐見焼の心となっています
CAFORAも、店で毎日使われる器を設計しています。どこに手間をかけるかを決めるのは、つくり手ではなく使う人の理想のほうだと考えています。実際の口当たりや重さは、サンプル で確かめられます。
波佐見焼と有田焼の違いを、公式の記述だけで整理する
波佐見町と有田町は県境をはさんで隣り合っています。どちらも17世紀初頭に朝鮮の陶工によって始まった磁器の産地で、混同されやすい関係です。公式ページに書かれていることだけを並べると、違いははっきりします。
有田焼 | 波佐見焼 | |
|---|---|---|
所在 | 佐賀県有田町とその周辺地域 | 長崎県東彼杵郡波佐見町・川棚町・東彼杵町 |
伝統的工芸品の名称 | 伊万里・有田焼 | 波佐見焼 |
指定年月日 | 昭和52年10月14日 | 昭和53年2月6日 |
始まり | 17世紀初頭、金ヶ江三兵衛(李参平)が泉山で陶石を発見 | 慶長3年(1598)、李祐慶兄弟が登窯を築く |
原料の陶石 | 泉山(有田) | 天草地方 |
公式が挙げる特徴 | 「白く美しい磁肌や華やかな絵付け、食器としての使いやすさや丈夫さ」 | 「透けるような白磁の美しさ」と呉須の染付、「価格も手頃です」 |
別の県の、別の伝統的工芸品です。 原料の陶石も違います。有田焼については 有田焼とは に詳しくまとめました。
ただし、どちらも「白い磁器に呉須で染付」という共通の出発点を持っています。見た目が似ていることには理由がある、ということです。
波佐見焼の特徴は「白磁と呉須の染付」、そして幅の広さ
製造工程を見ると、波佐見焼の性格がさらに具体的に見えてきます。伝統的工芸品産業振興協会の記述によれば、原料は「天草地方の陶石」で、「手ろくろ、手ひねり、型打ち、袋流し等の技法で形を作った後」、「約900度で素焼」します。
その後は絵付けの段階です。
- 下絵付:「高温で発色する下絵具で絵付けし、釉薬に浸し、約1300度で本焼」
- 上絵付:「さらに低い温度で溶ける上絵具で釉薬の上から絵を描き」、「約700〜800度で焼いて上絵具を定着」
釉薬の下に描くか、上に描くか。焼く順番が違うので、出せる色も、表面の手触りも変わります。 この仕組みは 上絵付けと下絵付けの違い に、釉薬という層の役割は 食器の釉薬とは にまとめています。
いま店頭で見かける波佐見焼は、染付だけでなくマットな単色やモダンな形も多くあります。協会の「伝統的なものからモダンなものまで、幅広い製品があります」という記述のとおりで、「波佐見焼だからこういう見た目」とは言えない産地になっています。
カフェの器として波佐見焼を見るときの判断軸
日用食器として広く流通しているので、業務用との相性は良い産地です。そのうえで確かめたい点があります。
1. 同じ品番を買い足せるか 業務で使えば器は必ず割れます。波佐見焼は継続生産される定番が多い一方、モダンな企画品は廃番もあります。発注前に、その品番が継続品かどうかを販売元に確認してください。
2. 食洗機・電子レンジの可否は製品ごとに確認する 産地名では決まりません。とくに上絵や金彩のあるものは条件が変わります。産地名で器の性格を決めつけられない理由は 日本の焼き物の種類 にも書きました。
3. 形と容量が、出したいメニューに合っているか 手頃で選択肢が多いぶん、「なんとなく良さそう」で選びがちです。容量・口径・リムの形は、味と見え方に直接効きます。 既製品で理想に届かないときに、はじめてオリジナルを検討する順番で構いません。
4. 店の世界観に合うか 幅が広い産地なので、同じ「波佐見焼」でも印象はまったく違います。ブランド名・シリーズ名まで指定して選ぶと、狙いがぶれません。
よくある質問
Q. 波佐見焼と有田焼はどう違いますか 所在地が違います。波佐見焼は長崎県東彼杵郡波佐見町など、有田焼は佐賀県有田町とその周辺地域です。国の伝統的工芸品としても「波佐見焼」(昭和53年2月6日指定)と「伊万里・有田焼」(昭和52年10月14日指定)で別々に指定されています。原料の陶石も、波佐見焼は天草地方、有田焼は泉山です。
Q. 波佐見焼はいつから焼かれていますか 波佐見町の公式サイトは「慶長3年(1598)」に大村藩主・大村喜前が朝鮮の陶工・李祐慶兄弟を連れ帰り、その翌年に登窯を築いてやきものづくりが始まったとしています。当初は施釉陶器で、のちに磁器生産へ移りました。
Q. くらわんか碗とは何ですか 波佐見町の公式サイトによれば「少し粗い白磁に呉須(藍色)で簡単な模様を描いた器」で、大量生産によって、それまで庶民の手に届かなかった磁器碗を手頃な価格にしたものです。
Q. 波佐見焼は陶器ですか、磁器ですか 磁器です。伝統的工芸品産業振興協会は「透けるような白磁の美しさ」を特徴として挙げ、天草地方の陶石を原料に約1300度で本焼すると記しています。
Q. 波佐見焼はカフェの業務用に使えますか 使えます。日用食器として設計されてきた産地で、価格も手頃です。ただし食洗機・電子レンジの可否や継続生産かどうかは製品ごとに違うので、発注前に販売元へ確認してください。
まとめ
波佐見焼とは、長崎県東彼杵郡波佐見町を中心につくられる磁器です。慶長3年(1598)に連れ帰られた朝鮮の陶工が翌年に登窯を築いたのが始まりで、施釉陶器から磁器へ移り、江戸後期には日本一の磁器生産量を誇りました。
その主役だったくらわんか碗は、簡略な染付と量産によって磁器を庶民の器に変えました。「手頃でしかも良質な日用食器」という姿勢は現在まで続いており、公式の説明にも「価格も手頃です」と明記されています。
隣接する有田焼とは、県も、伝統的工芸品としての指定も、原料の陶石も異なります。カフェの器として選ぶときは、産地名ではなく、継続品かどうか/食洗機・電子レンジの可否/容量と形/シリーズ名まで見て決めるのが確実です。
CAFORAは、瀬戸と美濃の技術のうえで、バリスタの理想から器を設計しています。波佐見焼の器と比べてみたくなったら、瀬戸・美濃で焼いたラテボウル、両手で包む 温 -ON- と、ラテアートを広く見せる 拡 -KAKU- もご覧ください。サンプルは1点から購入できます。

